管理費滞納物件の競売価格の定まり方

マンションの管理費を滞納している物件が競売によって売却されるときの競売価格はどうやって決まるのでしょうか。

例えば、Aさんという方が市場価格が1000万円のPマンションの部屋を所有しており、管理費を100万円滞納しているという場合を考えてみたいと思います。

任意売却でマンションの部屋を売却する場合

Aさんが任意売却でマンションをBさんに売却する場合、Bさんは滞納管理費を承継してしまいますので、Aさん・Bさん・P管理組合の三者間で合意をして、BさんはAさんに900万円を支払い、P管理組合に100万円を支払うという方法でPマンションの部屋を購入することになります。
この場合、AさんはPマンションの部屋の所有権を失う代わりに900万円を得ることができます。

強制競売でマンションの部屋が売却されてしまう場合

しかし、例えばP管理組合が管理費の滞納を理由にAさんに訴訟を起こして判決を取得し、Aさんの所有するPマンションの部屋を差押えて強制競売を行った場合、Aさんが得られる金銭は任意売却の場合よりも低くなってしまいます。
まず、強制競売においては競売市場性修正が働きますので、市場価格の6~7割程度の価格でしか物件が落札されません。7割だとするとAさんの所有するPマンションの部屋は滞納がなかったとしても700万円でしか売れないことになります。さらに滞納管理費は落札者に承継されますので、落札者としては通常の落札価格から管理費の滞納分を差し引いた金額でなければ落札をしません。したがって、Aさんの所有するPマンションの部屋は600万円でしか落札されないことになってしまいます。競売でPマンションの部屋を落札したBさんは600万円の代金納付をし、落札後にP管理組合に100万円を支払うことになります。

この場合、AさんはPマンションの部屋の所有権を失う代わりに600万円を得ることになりますが、実はそれで終わるわけではありません。
BさんはAさんに対してP管理組合に支払った100万円を求償することができるのです(東京高裁平成17年3月30日判決・判時1915号32頁)。
任意売却の場合、BさんがAさんに対して求償権を行使しないことも合意の内容とするはずですので問題はありませんが、強制競売の場合、AさんとBさんとの間の合意はありませんので、AさんはBさんから100万円の求償を受けてしまうことがあり得るのです。
そうすると、AさんはPマンションの部屋の所有権を失い500万円しか得られないことになってしまいます。

 

このようにAさんは任意売却であれば900万円を得ていたはずなのに、強制競売になると500万円しか得られない結果となるなど、任意売却と強制競売では大きな違いが出てしまいます。管理費を滞納している場合、まずは任意売却を考えるべきであり、強制競売にならないようにするべきです。

年14.6パーセントの割合を超える遅延損害金の利率を定めた管理規約の規定を有効であると判断した裁判例

東京地裁平成28年6月15日判決(平成27年(レ)第1080号管理費等請求控訴事件)

1.事案の概要

マンションの管理組合である被控訴人が、控訴人に対し、管理規約に基づき、滞納管理費等の支払及びそれに対する年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審である東京簡易裁判所は、被控訴人の請求を認容する判決(原判決)を言い渡したため(東京簡易裁判所平成27年(ハ)第13984号)、控訴人が年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金の支払請求は消費者契約法の規定に照らして許されない旨主張し控訴をした。

2.判決の要旨

裁判所は、「本件規約は、本件マンションの区分所有者で構成された被控訴人の自治規範であり、消費者契約法が対象とする消費者契約ではない」とし、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めを有効である旨判断した。

3.コメント

本判決は、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めを消費者契約法に違反しないと判断したものです。
消費者契約法は消費者契約においては年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金を無効であると定めていますので、管理規約が消費者契約に当たれば、年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金は無効となります。
しかし、裁判所は管理規約は、区分所有者で構成された管理組合の自治規範であり、消費者契約法が対象とする消費者契約ではないとして、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めも有効であるとしました。
当ブログにおいても言及しているところですが(⇒別記事)、管理規約は「消費者と事業者との間で締結される契約」ではないため、消費者契約法の適用はありません。
本判決は、そのことを明らかにした判決であり、結論には全面的に賛成いたします。

ただし、本件においては、被控訴人は控訴審において請求を減縮して年14.6パーセントの割合を超える部分の請求を取り下げているため、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めが消費者契約法に違反するかどうかという点は争点とはなり得ず、その点について裁判所が判断を示すのは妥当ではないようにと思われます。なお、個人的には控訴審で請求を減縮して本来であれば認められるはずの遅延損害金の請求をしなかった被控訴人の姿勢にも若干疑問を持つところではあります。

本稿では取り上げませんでしたが、本判決は充当方法に関して「当事者間の合意がない限り、民法491条1項の順に従わない充当指定はできない」という判断も示しております。