管理会社によるマンション滞納管理費の督促

滞納管理費の回収業務と弁護士法72条

弁護士法72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 」と定めています。

マンション滞納管理費の回収業務は管理費の滞納という法律事件を扱う行為ですので、マンション管理組合から依頼を受けて回収業務を行うことは、「法律事件に関して」、「法律事務を取り扱った」ことになります。

マンション管理会社が滞納管理費の回収業務を行った場合、弁護士法72条に違反するか

マンション管理会社は「弁護士又は弁護士法人でない者」ですので、「報酬を得る目的で」マンション管理費の回収業務を行うと弁護士法72条本文に違反することになります。
マンション管理会社は滞納管理費を回収しても、そこから成功報酬等をとるわけではないので「報酬を得る目的で」とは言えなさそうな気もします。
しかし、マンション管理会社はマンション管理組合から管理委託料を受けており、その業務の範囲内で滞納管理費の回収業務を行えば、やはり滞納管理費の回収業務と管理委託料が対価関係になり、「報酬を得る目的で」マンション管理費の回収業務を行ったと言わざるを得ません。

また、弁護士法72条但書は「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 」と定めていますが、区分所有法やマンション管理適正化法など関連法令のどこにもマンション管理会社が滞納管理費の回収業務を行って良い旨は定められておりませんので、マンション管理会社が滞納管理費の回収業務を行うことは弁護士法72条違反となります。

どこからが滞納管理費の回収業務に当たるか

それではどのような行為を行えば、マンション滞納管理費の回収業務を行ったことになるのでしょうか。

まず、滞納が発生した場合に、自動引落ができなかったことを滞納者に連絡することがあります。
これは単なる連絡ですので、マンション滞納管理費の回収業務にあたらず合法です。

次に、手紙や電話、訪問による督促はどうでしょうか。
自動引落ができなかった旨の連絡だけでは、滞納者がそれを読んでいない可能性もありますし、読んでいても忘れている可能性もあります。
そのような場合に、滞納者に対して手紙や電話、訪問をして連絡することは問題ありません。
また、管理組合では滞納者がなぜ滞納をしているのか知って今後の方針決定の材料にしたいはずです。
管理会社がその管理組合の意向を滞納者に伝達して、滞納者の言い分を管理組合に伝達することも許されます。
単なる伝達であれば、使者に過ぎないため回収業務を行ったとはいえないからです。

しかし、それを超えて例えば滞納者が支払拒否の意思を明確にしているのに、しつこく交渉を行ったり、滞納者の言い分に対して、管理会社が法的な見解を反論したりすることは、管理会社が回収業務を行ったと評価でき、弁護士法72条に違反することになると思います。

滞納者が支払拒否の意思表示を明確にしているかどうかがポイントになると思います。

滞納者が支払拒否の意思表示を明示していない場合であっても、滞納が長期間に及んでいる場合には黙示の意思表示と評価される可能性もありますので、滞納が長期間に及んでいる場合にも督促行為は行わない方が無難です。

マンション管理組合員の方の中には長期滞納が発生した場合にマンション管理会社を責め、督促行為の強化を求める方がいらっしゃいます。
しかし、それは違法な回収業務を指示していることになりかねません。

一般的には数か月以上の滞納が発生した場合には、マンション管理会社は督促の責任を負わない旨の委託契約になっていると思います。
それはマンション管理会社が違法な回収業務を行わないようにするためのものです。

合法的な滞納管理費の回収

合法的にマンション滞納管理費の回収業務を行うには管理組合が直接回収業務を行うか、弁護士に依頼するしかありません(一部司法書士でも許されるものもあります。)。

しかし、マンション管理組合が自ら回収業務を行うというのは、理事にとって大変な負担であり現実的ではありません。

長期の滞納(一般的には6か月以上)が発生したり、滞納者が支払拒否の意思を明確にしている場合には弁護士に依頼するというのが確実です。

違法な回収業務を行いたいと思っているマンション管理会社は存在しません。
なぜなら、そもそも滞納管理費の回収業務を行っても、マンション管理会社に利益はないからです。
マンション管理会社が違法な回収業務を行うのは、マンション管理組合からに強いられて行う場合がほとんどです。
中にはやる気があるあまり暴走してしまい違法な回収業務を行ってしまう管理会社のフロントさんもいらっしゃいますが、極めて稀です。

マンション管理会社に違法な回収業務を行わせないことは、マンション管理組合のコンプライアンス向上にも役立ちますし、マンション管理会社にとっても負担の大きい業務を減らせることになるのですから、どちらにとってもメリットのあるものです。

弁護士に依頼すると、費用がかかってしまうという問題はありますが、K&K PARTNERS法律事務所では、相談料無料・着手金無料・成功報酬25%のみでマンション滞納管理費の回収を行っており、またマンション管理会社様の督促では取りづらい遅延損害金も請求することができますので、マンション管理組合様の負担は少なくて済みます。
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一時的滞納~長期滞納 滞納期間別の対策

マンション管理費滞納対策―特に長期滞納者への対策

長期滞納の定義

管理費の滞納といっても、当然のことながら最初から長期滞納ということはあり得ませんので、いくつかの段階を踏んで長期滞納に至ります。
まずは1~2か月の一時的な滞納、次に3~6か月の初期滞納、6~1年の中期滞納、1年以上の長期滞納に分けられます。
初期滞納や長期滞納の正式な定義はありませんが、上記の定義がしっくりくるので、本記事ではそのように定義します。

管理費の一時的な滞納

一時的な滞納は払い忘れや口座変更の手違いなど単純なミスによって発生することがあります。
また経済的な困窮を理由とする場合でも深刻ではないケースが多いです。
したがって、この段階で書面等により督促を行えば、きちんと支払ってもらえることが多いです。
滞納問題へは早い段階で対応するのが一番ですので、1か月でも滞納があれば対応をするべきです。
この段階で放置をしてしまうと、中長期の滞納に発展しかねません。

管理費の初期滞納

一時的な滞納は過失によることもありますが、3か月以上の滞納は故意に滞納していることがほとんどです。
その理由は経済的な困窮を理由とする場合もありますが、マンションの管理組合やマンション管理会社に対しての不満が理由であることも少なくありません。
この段階での対応としては書面で督促するとともに、滞納者と管理組合の理事会などで話をして、管理費を支払ってもらえるように説得をすることも必要です。
マンション内での不満が理由であれば、それを解消することによって管理費を支払ってもらえる可能性もありますし、経済的な理由であっても他の支払に優先して管理費を支払うように説得することもできます。

管理費の中期滞納

6か月以上の滞納の場合、もはや管理組合内で解決することは難しくなっているといえます。
経済的な困窮を理由とする場合、6か月分の滞納管理費の一括払いは難しいのが通常だと思いますし、分割で支払ってもらうにしても毎月の管理費もプラスされるため、完済までに時間がかかってしまうことも多いです。
またマンション内での不満を理由とする場合、問題はかなりこじれた状態だと推測されますので、簡単に解決することはできない状態になっていることが多いと思われます。
管理費の中期滞納に関しては、弁護士に滞納管理費の回収を依頼し、弁護士名で督促してもらうのが一番です。
弁護士名で通知が来たことに驚き、資金繰りを行って滞納管理費の支払をする滞納者は少なくありません。
滞納者が支払に応じない場合、法的措置に移行することができます。

管理費の長期滞納

管理費の長期滞納者に対しては、弁護士に依頼をして督促をするとともに、法的措置を検討するべきです。
この段階の滞納は任意の交渉では簡単に解決できない段階に至っています。
マンションの秩序維持のためにも断固として対応をするべきです。
具体的には訴訟を行い、滞納のある部屋を差押えるなどして回収を図ります。
管理費の消滅時効は5年ですので、早めに対応しないと時効で回収できなくなってしまうこともあります。

管理費滞納に対する事前のマニュアル作り

滞納が6か月を超えた段階で弁護士への依頼を検討するべきですし、1年を超えて長期滞納が発生してしまった場合は速やかに弁護士に依頼をするべきです。
管理費の滞納が発生しないようにマンション内のコミュニティを活性化させるなど予防を行うことは必要ですが、それでも滞納は発生してしまいます。
滞納が発生してから考えるのではなく、あらかじめ滞納管理費の問題に対応するためのマニュアルを作成しておくべきだと思います。
本記事での解説を参考に各マンションの状況に合わせたマニュアルを作成してはいかがでしょうか。
マニュアル作成に関してはマンション管理会社やマンション管理士に相談をするのも一つの方法だと思います。