特定承継人による前所有者に対する滞納管理費の求償

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特定承継人が前所有者から承継した滞納管理費を支払った場合、特定承継人は前所有者に対して同額の求償をすることができるか

滞納管理費のあるマンションの部屋を購入した特定承継人は前所有者の滞納管理費の支払義務を承継することとされています(区分所有法8条、7条)。
それでは、滞納管理費を支払った特定承継人はその額を前所有者に求償することができるのでしょうか。

特定承継人が任意売却で滞納管理費のあるマンションを購入した場合

特定承継人が任意売却で前所有者からマンションの部屋を購入した場合には問題になることはほとんどありません。
なぜなら、そのような場合、特定承継人は事前に滞納管理費の分を価格から控除して前所有者に対して支払い、その代わりに特定承継人が求償権を放棄することが契約書に明記されていることがほとんどだからです。
契約書に明記されていなくても、価格に反映されていれば求償権を放棄する旨の黙示の合意があったものと考えることができます。
しかし、滞納管理費の額が価格に反映されていなければ、管理費を滞納したのは前所有者なのですから、特定承継人の負担割合はゼロであると考えるべきであり、滞納管理費を支払った特定承継人はその全額を前所有者に求償できることに争いはないと思われます。特定承継人の義務は、補完的なものに過ぎないからです。

特定承継人が競売で滞納管理費のあるマンションを落札した場合

問題となるのは特定承継人が滞納管理費のあるマンションの部屋を競売で落札した場合です。
競売物件においては、裁判所によって売却基準価額が定められますが、その金額には滞納管理費分が考慮され、管理費滞納のあるマンションはそうでないマンションよりも安い価額が定められます。
これは、落札者も特定承継人である以上、前所有者の滞納管理費の支払義務を承継するため、落札者が不測の損害を負わないように、裁判所がそれを売却基準価額に反映させているためです。
この場合、特定承継人と前所有者との間には契約関係はありませんので、滞納管理費分が落札額に反映されていたとしても、特定承継人と前所有者との間に求償権を放棄する旨の合意は存在し得ません。
また、売却基準価額が安く設定されたとしても、競売である以上、落札価格が高騰する可能性はあり、滞納管理費分が落札額に十分に反映されるとは限りません。
したがって、競売で落札をした場合であっても、滞納管理費を支払った特定承継人はその全額を前所有者に求償できると考えるべきだと思います。
競売物件において、管理費滞納のあるマンションをそうでないマンションよりも安く落札できるのは、特定承継人がマンション管理組合に滞納管理費を支払った場合に、前所有者が無資力であれば、その求償ができない可能性があるため、そのリスクを考慮して、事実上安く落札できているに過ぎないと考えられるからです。

《参考裁判例》

東京高等裁判所平成17年3月30日判決・平成16年(ネ)第5667号求償金請求控訴事件

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