マンション滞納管理費回収と支払督促

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

滞納管理費の回収手段として支払督促を利用することはおすすめしません。

滞納管理費回収業務においては支払督促にあまりメリットはありません。

支払督促のメリットは、費用の安さと手続の簡便さにあります。しかし、安いといっても、裁判所に納める手数料等は1,000円程度~1万数千円程度(請求額によります。)の違いしかありませんし、弁護士に支払う費用も一般に2~3万円程度しか違いがありません(なお、当職の場合、通常訴訟も支払督促も同じ報酬額です。)。また、手続についても、管理費等支払請求訴訟の場合、通常訴訟でも、1回の出廷で終結することが多いので、通常訴訟の方が手間がかかるというほどではありません。

そうすると、支払督促のメリットは、滞納管理費回収業務においては、あまりないことになります。

逆に滞納管理費回収においては、支払督促はデメリットの方が多いです。

①将来給付の訴えができない

これが一番大きな理由ですが、支払督促においては、実務上、将来給付の訴えをすることができないことになっています(学説上は争いのあるところです。)。前回の記事でも解説しましたが、長期滞納者は今後も滞納を継続することが予想されますので、あらかじめ、債務名義を取得しておき、将来の滞納に備える必要があります。支払督促では、その時までの滞納についてしか債務名義を取得することができませんので、将来の滞納に対応することができません。

②相手方の住所地を管轄する裁判所で申し立てなければならない

支払督促は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して申し立てなければなりません。この住所地は、原則として住民票上の住所地になりますので、管理費の滞納が問題となっているマンションの住所地と異なる可能性があります。また、賃貸用のマンションの場合、マンションの住所と滞納者の住所が異なるのが一般的です。

滞納者が支払督促に異議を申し立てた場合、通常訴訟に移行しますので、場合によっては、遠方の裁判所に出廷しなければならないこととなり、時間・手間・費用の負担が増大します。

③59条訴訟において通常訴訟の提起を求められる可能性がある

管理費の滞納を理由として、59条訴訟を提起する場合、59条競売以外の他の方法では管理費の滞納を解消できないことが要件になります。ところが、稀にですが、裁判官によっては、通常訴訟を提起することが「他の方法」に当たると考えている裁判官がいて、59条訴訟の口頭弁論時に、「通常訴訟は提起したんですか?」というようなことを聞かれることがあります(具体的には、横浜地裁管内の裁判所の裁判官に多い印象があります。)。支払督促しかしていない場合、「他の方法」、すなわち通常訴訟によって滞納の解消ができると判断され、請求が棄却されてしまう可能性があります。

以上のようなデメリットを負ってまで、支払督促を行うメリットはありません。最初から、管理費等支払請求の通常訴訟を行った方が、時間や費用を節約できますし、将来給付の債務名義を取得することもでき、将来的な59条訴訟につなげることもできますので、効果的です。

当職は、滞納管理費回収に関しては、原則として、支払督促をお断りしております。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*