滞納管理費回収と少額訴訟

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滞納管理費回収業務において少額訴訟のメリットはほとんどありません。それどころか、デメリットばかりですので、滞納管理費の回収業務において、少額訴訟を利用するべきではありません。滞納管理費回収業務に精通している弁護士であれば、管理組合様にこの制度を勧めることは絶対にないと思います。

まず、一般論として、少額訴訟のメリットは、そのスピードに尽きます。原則として、1回の期日で審理が終わり(民訴370Ⅰ)、その場で判決が下されます(同374Ⅰ)。しかし、管理費等支払請求訴訟においては、これは当てはまりません。なぜなら、管理費等支払請求訴訟は、通常訴訟の場合でも、相手方が出廷せず、又は、出廷しても事実関係を認めることが多いため、1回の期日で終結することが多いためです(組合様が和解の話に応じる場合、2~3回かかることもあります。)。あえて言えば、通常訴訟の場合、判決は、その場ではなく、1~2週間後(争いがない場合)に言い渡されることが多いので、その程度の差はあります。ただ、1~2週間早く判決をもらっても、結局、その後の強制執行等、最終的な解決には半年以上を要することが多いので、1~2週間は大した差にはなりません。

通常訴訟の場合、相手方が争ってくると、裁判が長引くことはありますが、そのような場合、少額訴訟を提起したとしても、相手方から通常訴訟への移行を申述されることは間違いありませんので、結局、通常訴訟と同様かそれ以上の時間がかかってしまうことになります。

次に、よく、少額訴訟のメリットとして、費用が安く済むということが言われますが、完全に誤りです。少額訴訟であっても、通常訴訟であっても、費用はほぼ同じです。裁判所に納める費用も弁護士に支払う報酬も原則同じです(あえて言えば、裁判所に納める予納郵券(切手)が1,000円ちょっと安くなりますが、使用されなかった分は後に戻ってくるので、少額訴訟でも通常訴訟でも同額になるはずです。)。弁護士によっては、少額訴訟の場合に、通常訴訟よりも安い着手金で引き受ける弁護士がいないとは限りませんが、少額訴訟でも通常訴訟でも同じ手間がかかるので(場合によっては、少額訴訟の方が手間がかかります。)、同じ弁護士としては理解ができません。

以上のとおり、滞納管理費の回収業務においては、少額訴訟のメリットは何一つないと言っても過言ではありません。

それに対し、少額訴訟には、以下のとおり、多々のデメリットがあり、滞納管理費回収業務においては、絶対おすすめできません。

【少額訴訟のデメリット】

①訴額60万円以下までしか利用できない。

まず大前提として、管理費の滞納案件においては、今後も滞納が予想される場合がほとんどだと思われますので、将来分も含めて請求しなくてはならないことを指摘する必要があります。すなわち、現在の滞納分に対して判決を取得したとしても、その後、滞納者が少額ずつ滞納管理費を支払い、組合様が判決分の滞納管理費を回収してしまうと、判決後に発生した滞納管理費が残っていたとしても、あらためて判決を取得しなければ、強制執行などの手続がとれないためです。

そうすると、訴額60万円以下だと、管理費等の月額が2万円の組合様の場合、将来分の請求の訴額は12か月分という計算がされますので、滞納分の管理費としては、1年6か月分までしか請求できないことになります。訴訟準備がかかることを考えると、1年ちょっとの滞納の時点で訴訟に踏み切らないと、将来分の請求ができないことになりますが、その時点で、訴訟に移行できる組合様は多くないと思います。管理費等の月額がさらに高ければ、訴訟に踏み切る時点はさらに早くなるため、少額訴訟を利用できるケースは限られることになります。

②控訴ができない。

管理費等請求訴訟で組合様の訴えが却下されたり、請求が棄却されることは稀ですが、簡易裁判所の場合、不合理な判決が出されることもなくはありません。少額訴訟の判決に対しては控訴ができず(民訴377)、1回だけ異議を出せますが(民訴378Ⅰ)、同じ裁判官が再び判断をしますので(民訴379Ⅰ)同じ結論になることがほとんどだと思われます。それに対する控訴もできませんので(民訴380Ⅰ)、不合理な判決が出された場合、その結論が確定してしまうことになります。

③支払猶予・遅延損害金免除の可能性がある。

少額訴訟の判決においては、裁判所が、3年を超えない範囲で支払を猶予し、分割払を認め、さらに、訴え提起後から支払完了時までの遅延損害金を免除できることになっています。

通常訴訟であれば、一括で全額回収できたはずの管理費が、3年近くも回収できないことになりかねず、さらに遅延損害金まで免除しなければならないことになりかねません。

管理組合様にとっては、不利な規定以外の何物でもありませんので、この一点をもってしても、少額訴訟を利用すべきではない理由になります。

④59条訴訟において通常訴訟の提起を求められる可能性がある。

管理費の滞納を理由として、59条訴訟を提起する場合、59条競売以外の他の方法では管理費の滞納を解消できないことが要件になります。ところが、稀にですが、裁判官によっては、通常訴訟を提起することが「他の方法」に当たると考えている裁判官がいて、59条訴訟の口頭弁論時に、「通常訴訟は提起したんですか?」というようなことを聞かれることがあります(具体的には、横浜地裁管内の裁判所の裁判官に多い印象があります。)。少額訴訟しか提起していない場合、「他の方法」、すなわち通常訴訟によって滞納の解消ができると判断され、請求が棄却されてしまう可能性があります。

以上のとおり、滞納管理費の回収業務においては、少額訴訟は、デメリットしかなく、全くメリットはありません。少額訴訟ではなく通常訴訟を検討してください。管理費等請求事件の場合、通常訴訟でも少額訴訟でも、時間、費用、手間に差は出ません。多少、少額訴訟の方が時間が早いことがあり得ますが、大差ありませんし、手間に関しては少額訴訟の方がかかる可能性もあります。少額訴訟を勧める弁護士や司法書士、マンション管理士等の専門家がいらっしゃるかもしれませんが、おそらく滞納管理費の問題に精通していない方だと思われますので、別の専門家に相談をすることを強くお勧めいたします。

 

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