マンション滞納管理費の基礎知識

行方不明の管理費滞納者に対する滞納管理費の請求

管理費を滞納している区分所有者が行方不明の場合でも、管理費の回収をすることはできます。

まず、滞納者の住民票の写し等を取得し住所を調べる必要があります。

住民票の写し等は第三者でも取得することが可能です。

滞納者の住民票の取得の方法ですが、まず、管理費の滞納があるマンションの部屋の登記事項証明書(不動産登記簿謄本)を取得します。
次にそこに所有者として登記されている者の住所が記載されていますので、その市区町村に滞納者の住民票の写し等の交付の申出をします。
住民票の写し等の交付の申出にはその利用の目的等を明らかにするために市町村長が適当と認める書類を提出してしなければならないとされており、滞納管理費の請求のために滞納者の住民票が必要であることを明らかにする書類(市区町村によって異なりますので各市区町村にお問い合わせください。)を提出する必要があります。

なお、住民票の写し等の取得は弁護士に滞納管理費の回収を委託すれば、弁護士の職務上請求によって簡単にすることができます。

住民票上の住所が判明したら、その住所に書面を送付します。
住民票所の住所が管理費の滞納があるマンションのままであったり、住民票上の住所に送付した書面が返送された場合には、滞納者に対する滞納管理費の支払請求訴訟を検討することになります。

滞納者が行方不明であっても、公示送達という方法で滞納者に訴状を送達することができますので、訴訟を提起することは可能です。
公示送達とは、裁判所の掲示場に訴訟が提起されたことなどを掲示し、掲示を始めた日から2週間を経過することによって、送達の効果が発生するものです。
公示送達を必要とすること以外は、滞納者が行方不明の場合でも通常の滞納管理費の回収の場合と同様の手続を取ることになります。

なお、行方不明者に対する区分所有法59条(58条3項を準用)の弁明の機会の付与に公示送達が必要か否かについてですが、区分所有法は総会の招集通知に関し、「区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば足りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。 」と定めているところ(35条3項)、区分所有法59条は弁明の機会さえ与えれば足りるものですから、区分所有法59条1項の決議を行う際の総会の招集通知に滞納者に総会の場で弁明の機会を与える旨を記載しておけば、滞納者に公示送達まで行わなくとも、区分所有法35条3項の定める場所に招集通知を送付すれば、弁明の機会を付与したことになると解されます。

【参照条文】

住民基本台帳法

(本人等以外の者の申出による住民票の写し等の交付)
第十二条の三  市町村長は、前二条の規定によるもののほか、当該市町村が備える住民基本台帳について、次に掲げる者から、住民票の写しで基礎証明事項(第七条第一号から第三号まで及び第六号から第八号までに掲げる事項をいう。以下この項及び第七項において同じ。)のみが表示されたもの又は住民票記載事項証明書で基礎証明事項に関するものが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該申出をする者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
一  自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者
二  国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
三  前二号に掲げる者のほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者
2  市町村長は、前二条及び前項の規定によるもののほか、当該市町村が備える住民基本台帳について、特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
3  前項に規定する「特定事務受任者」とは、弁護士(弁護士法人を含む。)、司法書士(司法書士法 人を含む。)、土地家屋調査士(土地家屋調査士法 人を含む。)、税理士(税理士法人を含む。)、社会保険労務士(社会保険労務士法 人を含む。)、弁理士(特許業務法人を含む。)、海事代理士又は行政書士(行政書士法 人を含む。)をいう。
4  第一項又は第二項の申出は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一  申出者(第一項又は第二項の申出をする者をいう。以下この条において同じ。)の氏名及び住所(申出者が法人の場合にあつては、その名称、代表者又は管理人の氏名及び主たる事務所の所在地)
二  現に申出の任に当たつている者が、申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは、当該申出の任に当たつている者の氏名及び住所
三  当該申出の対象とする者の氏名及び住所
四  第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の利用の目的
五  第二項の申出の場合にあつては、前項に規定する特定事務受任者の受任している事件又は事務についての資格及び業務の種類並びに依頼者の氏名又は名称(当該受任している事件又は事務についての業務が裁判手続又は裁判外手続における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務その他の政令で定める業務であるときは、当該事件又は事務についての資格及び業務の種類)
六  前各号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項
5  第一項又は第二項の申出をする場合において、現に申出の任に当たつている者は、市町村長に対し、個人番号カードを提示する方法その他の総務省令で定める方法により、当該申出の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない。
6  前項の場合において、現に申出の任に当たつている者が、申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは、当該申出の任に当たつている者は、市町村長に対し、総務省令で定める方法により、申出者の依頼により又は法令の規定により当該申出の任に当たるものであることを明らかにする書類を提示し、又は提出しなければならない。
7  申出者は、第四項第四号に掲げる利用の目的を達成するため、基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項(第七条第八号の二及び第十三号に掲げる事項を除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部が表示された住民票の写し又は基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項の全部若しくは一部を記載した住民票記載事項証明書が必要である場合には、第一項又は第二項の申出をする際に、その旨を市町村長に申し出ることができる。
8  市町村長は、前項の規定による申出を相当と認めるときは、第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書に代えて、前項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
9  第一項又は第二項の申出をしようとする者は、郵便その他の総務省令で定める方法により、第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる。

 

住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令

(本人等以外の者の住民票の写し等の交付の申出の手続及び申出につき明らかにしなければならない事項)
第十条  法第十二条の三第一項 又は第二項 の規定による住民票の写し等の交付の申出は、同条第四項 各号及び次項に掲げる事項を明らかにするため市町村長が適当と認める書類を提出してしなければならない。この場合において、市町村長が必要と認めるときは、同条第四項第四号 の事項を証する書類の提示又は提出を求めるものとする。
2  法第十二条の三第四項第六号 に規定する総務省令で定める事項は、同条第九項 の規定に基づき住民票の写し等の送付を求める場合において、申出者の住所又は主たる事務所の所在地以外の場所に送付することを求めるときは、その理由及び送付すべき場所とする。

 

民事訴訟法

(公示送達の要件)
第百十条  次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一  当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二  第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三  外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四  第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2  前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3  同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。

(公示送達の方法)
第百十一条  公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。

(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条  公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2  外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3  前二項の期間は、短縮することができない。

 

建物の区分所有等に関する法律

(招集の通知)
第三十五条  集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。
2  専有部分が数人の共有に属するときは、前項の通知は、第四十条の規定により定められた議決権を行使すべき者(その者がないときは、共有者の一人)にすれば足りる。
3  第一項の通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば足りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。
4  建物内に住所を有する区分所有者又は前項の通知を受けるべき場所を通知しない区分所有者に対する第一項の通知は、規約に特別の定めがあるときは、建物内の見やすい場所に掲示してすることができる。この場合には、同項の通知は、その掲示をした時に到達したものとみなす。
5  第一項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項、第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。

マンションに抵当権が設定されている場合の滞納管理費の回収について

管理費を滞納している部屋に抵当権が設定されている場合でも、滞納管理費を回収することは可能です。

マンションを購入する際には銀行等から融資を受け住宅ローンを組むことが多いと思います。その際、当該マンションの部屋に抵当権を設定するのが一般的です。
抵当権が設定されている場合、管理組合が滞納管理費の支払請求訴訟を提起し、その判決を債務名義として当該マンションの部屋を差し押さえて強制競売を行ったとしても、まず最初に配当を受けるのは抵当権者である銀行等で、剰余がある場合に管理組合は配当を受けることができるに過ぎません。
そうすると、落札金額が住宅ローンの額に滞納管理費の額を加えた額に満たなければ、管理組合は滞納管理費全額の配当を受けることができないことになってしまいます。

しかし、落札者である当該マンションの部屋の新所有者は、滞納管理費の支払義務を承継しますので(区分所有法8条)、強制競売によって滞納管理費全額の配当を受けることができなかった場合、管理組合は新所有者に滞納管理費の支払を請求することによって、滞納管理費の回収を図ることができます。
多くの場合、新所有者は不動産業者であることが多いため、特定承継人の滞納管理費の支払義務については熟知していることが多く、新所有者との滞納管理費の支払の交渉はスムーズにいくことが多いです。
しかしながら、滞納管理費の支払を拒絶する新所有者もいますので、その際は、改めて当該マンションの部屋を差し押さえて強制競売をすることになります。一度目の強制競売により抵当権等は消滅しますので(民事執行法59条1項)、管理組合は配当により滞納管理費の全額を回収できることが可能が高いです。

いわゆるオーバーローンの状態でも滞納管理費の回収を図ることは可能です。オーバーローン状態では区分所有法59条の競売という手続を利用します。
強制競売においては、裁判所が買受可能価額という最低落札価格を決定しますが(民事執行法60条2項)、抵当権の債権額がその額を上回っている場合には裁判所によって強制競売の手続が取り消されてしまいます(同法63条2項)。そこでオーバーローンの場合、区分所有法59条の競売を行います。区分所有法59条によると「共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去」できない場合には、競売をすることができます。この競売は配当を目的とするものではなく、所有者の変更を目的とするものです。したがって、競売によって管理組合が配当を受けることは望めません。しかし、競売で落札をした新所有者は滞納管理費の支払義務を承継しますので、新所有者に滞納管理費の支払を請求することによって、管理組合は滞納管理費の回収を図ることが可能です。

以上のとおり、抵当権が設定されている場合であっても、滞納管理費の回収を行うことは可能ですので、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

【参照条文】

建物の区分所有等に関する法律

(特定承継人の責任)
第八条  前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

(区分所有権の競売の請求)
第五十九条  第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2  第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3  第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4  前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。

民事執行法

(売却基準価額の決定等)
第六十条  執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。
2  執行裁判所は、必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる。
3  買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。

(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
第六十三条  執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一  差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二  優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2  差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一  差押債権者が不動産の買受人になることができる場合
申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二  差押債権者が不動産の買受人になることができない場合
買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3  前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4  第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。