滞納管理費回収と心理学的テクニック

マンション滞納管理費の回収に心理学的テクニックを駆使する

マンション滞納管理費の回収も債権回収であることに変わりはありません。
住宅ローンやサラ金の督促、売掛金の回収などと本質的には同じです。
そして、交渉の相手方である管理費の滞納者も人間ですから、債権回収における心理学的テクニックは有効です。
今回はそのようなテクニックをいくつか紹介いたしますので、管理費回収に役立てていただければと思います。

※なお、本稿での解説は著者の経験や一般的な知識に基づくものであり、学術的見解に基づくものではありません。
学問としての心理学に興味がおありの方は、心理学の体系書などで学ばれることをお勧めします。
また、学術的な心理学の見地から本稿の記述に批判があられる場合は、喜んでお受けいたしますのでコメント欄にてご教示ください。

1 心理的圧力をかける

当然のことと思われるかもしれませんが、心理的圧力をかけるというのは債権回収における基本的なテクニックです。
人は面倒なことや苦しいことからは逃れたいという心理が働きます。
滞納者に対して、心理的圧力をかけることによって、その圧力から逃れるために滞納管理費の支払をしようという心理が働くのです。
例えば、頻繁に電話や郵便にて連絡をすることは非常に有効な手段です。
督促の電話や郵便が気持ちいいという人間はほとんどいませんので、頻繁にかかってくる督促の電話から逃れたいという気持ちで、管理費の支払に応じるということは十分にあり得ます。
マンションの管理費の滞納者は、管理費を全く払えないというわけではなく、管理費の支払の優先順位を落として他の支払に充てているという確信犯が多いので、他の債権者よりも頻繁に督促を行うことで管理費の支払の優先順位を上げさせることができるのです。
ただし、この方法は支払能力が全くない滞納者に対しては意味がありませんし、相手によっては本当に逃げてしまう(行方不明になるなど)こともあり、滞納管理費の回収により手間がかかってしまうこともあり得ますので、この方法に頼り過ぎないように注意が必要です。

2 返報性の原理

人は他人から何かやってもらったときにお返しをしなければならないという心理が働きます。
この原理は滞納管理費の回収においても応用ができます。
それほど大きなことをしてあげる必要はなく、小さなことをしてあげるだけでいいのです。
一番簡単なのは「話を聞いてあげる」ことです。
マンションの管理費を滞納しているということは、経済的に何らかの困りごとがあるということです。
その話を聞いてあげるだけでいいのです。
最後まで時間をかけて話を聞いてあげて、その後に滞納管理費の支払について切り出すと、話を聞いてもらったんだからどうにか少しでも支払おうという気持ちになるものです。

3 一貫性の原理

人は自分の行動には一貫性をもたせようとする心理が働きます。
この原理を利用することで滞納管理費の回収ができる場合は少なくありません。
例えば、長期にわたり管理費を滞納している区分所有者がいる場合に、まず1万円だけでも滞納管理費を支払ってもらうのです。
そうすると、その滞納者には一貫性の原理が働きますので、自身の行動の一貫性を保つために、その後の滞納管理費の督促にも応じてもらえる可能性が高まるのです。
最初に少額の支払をしてもらい、その後、支払額を大きくしていくやり方はフット・イン・ザ・ドア・テクニックと呼ばれる手法で、一貫性の原理を応用したテクニックです。
マンションの管理費は、滞納が長期になると一括での支払が難しいこともありますので、このテクニックを利用して、分割で回収を図ることも有用です。

マンション管理費滞納のデメリット

マンション管理費滞納をしてしまうと以下のようなデメリットがあります。

遅延損害金の発生

マンション管理費の滞納は民法上は金銭債務の債務不履行に当たりますので、当然に年5%の遅延損害金の支払義務が発生します。
さらに、多くのマンション管理組合には管理規約で年14%~18%の遅延損害金の利率が定められていますので、民法上の年5%ではなく規約に定められた利率の遅延損害金の支払義務を負うことになります。
年14%以上の利率というは消費者金融かそれ以上の金利ですので、放っておくと非常に大きな金額になります。

弁護士費用の支払義務

マンションによっては管理規約によって管理費滞納に対して遅延損害金に加え違約金としての弁護士費用等の支払義務を定めている場合があります。
そうすると、例えば元金100万円、遅延損害金20万円の滞納があったとすると、それに対し弁護士費用32万4000円(※)がかかることになりますので、総支払額は152万4000円となり、元金100万円に加えて52万4000円もの支払をしなければならないことになりますので、滞納者の負担としては非常に大きいものになってしまいます。

※当事務所の場合(120万円×25%+消費税8%)

マンションの部屋の価値が低下する

区分所有法8条により、管理費滞納のあるマンションの部屋の特定承継人はその滞納管理費の支払義務を承継しますので、その滞納管理費分を控除した金額でなければ、そのマンションの部屋を購入することはありません。
すなわち、滞納管理費分だけマンションの部屋の価値が低下するということです。
これは任意売却の場合でもそうですが、競売の場合、滞納者はマンションの価値の低下と滞納管理費の求償という二重の負担を負う可能性があります。
例えば、競売市場で1000万円の物件があったとして、200万円の管理費滞納があれば、単純計算でその物件は800万円でしか売れないことになります。さらに競売で落札した新所有者が滞納管理費を支払うとその新所有者は200万円を前所有者に求償することができますので、前所有者は200万円安くしかマンションを売ることができず、さらに200万円の求償を受けてしまうという二重の負担を負わされることになります。
この結論が妥当かどうかには議論がありますが、東京高裁平成17年3月30日判決はこれを是認する判断をしております(前記事参照)。

マンション内での立場の悪化

マンション管理費を滞納してしまうとマンション内で居心地の悪い思いをすることは避けられません。
管理費滞納は明確なルール違反ですので、他の組合が声に出して批判しないとしても、肩身の狭い思いをすることは間違いありません。
子供がいる家庭の場合、問題はさらに深刻化します。
マンション管理費滞納を理由にイジメなどがなされるのは言語道断であり、決して許されるものではありませんが、子供の場合は大人以上にコミュニティが狭いわけですから、気まずさや居心地の悪さは大人の比ではないと思います。
マンション管理費の支払はマンションに住む以上最低限の守らなければならない義務なのですから、管理費滞納に陥らないように常日頃から注意をしておく必要があり、万が一滞納せざるを得ない状況になったらすぐに管理組合に相談するなど、対応をとる必要があると思います。