マンション滞納管理費の基礎知識

マンション滞納管理費の3つの予防策

マンション管理費滞納の予防の重要性

マンションの管理費は毎月発生するものですから、一度滞納が始まると滞納が重なり、多額の滞納となってしまうことがあります。月1~2万円の額の管理費であっても、1年以上滞納すると遅延損害金も含めると、滞納額が数十万円になってしまいます。

滞納が多額になってからでは、滞納者もすぐには払うことができず、管理組合としても回収が容易ではなくなります。

滞納が発生してから回収するのではなく、そもそも管理費を滞納させないことが一番の滞納管理費対策といえます。

具体的なマンション管理費滞納の予防策

管理費滞納の予防策としては、以下の方法が考えられますが、それにとどまるものではありません。

・良好なコミュニティの形成

マンション内のコミュニティを活発化し、良好な関係を築くことで、心理的に管理費を滞納しづらい環境を作ることができます。
すなわち、マンション管理組合というのは自治会的な組織ですので、ご近所づきあいなどもあったりします。そのコミュニティが良好であればあるほど、マンションの管理費を滞納すれば周りの人に迷惑がかかるという意識が強くなり、管理費の滞納をしないようにしようという心理的圧力が発生します。
良好なコミュニティの形成は管理費滞納防止に役立つだけでなく、防災や犯罪防止の観点からも重要ですし、何よりもより暮らしやすい環境の形成につながるわけですから、一石二鳥の方法です。

・ペナルティ(遅延損害金など)の設定

滞納管理費に対して高額の遅延損害金の利率や弁護士費用の負担を定めることは滞納管理費の抑制につながります。
管理費を滞納してもそれほど損がなければ、人は滞納をしても構わないという心理になりがちです。
しかし、管理費を滞納すれば明確に損をするということであれば、他の債務の支払よりも先に管理費を支払う気持ちになります。
幸い、管理費の遅延損害金に対しては消費者契約法や利息制限法の規制は及びませんので、それらよりも高額の遅延損害金の利率を設定することが可能です。
滞納発生前であれば、誰も滞納をするつもりがないわけですから、反対をする理由がありません。
滞納発生後に変更しようとすると現に滞納をしている人から不満が出るわけですから、滞納発生前に滞納管理費の遅延損害金を高率にするべきです。
具体的には14.6%(≒日歩4銭)以上の利率が望ましいと思います。

・既存の管理費滞納者への厳格な対応

すでに管理費を滞納をしている人に対しては厳格な対応をするべきです。
滞納者に対して甘い態度をとれば、今は滞納をしていない人でも、自分も滞納したとしても見逃してもらえるという意識を持たせることになってしまいます。
また、現在の滞納者も新たな滞納をしかねません。
1か月の払い忘れ程度であればともかく、2か月続くようなら遅延損害金も請求するなど厳しい態度で臨むべきです。

マンションを所有しているのに毎月の管理費を全く払えないという人はまずいません。「払えない」のではなく「払わない」のです。本当に「払えない」のであれば、マンションを手放すべきです。

「払わない」人を発生させないためには、その予備軍の人に心理的圧力(積極的な意味でも、消極的な意味でも)をかけ、管理費の滞納をしないような環境づくりをする必要があります。

管理費の滞納問題は、それが発生するまではなかなか問題視しにくいとは思いますが、常日頃より関心を持って対策を講じるべき事項だと思います。

マンションの滞納管理費の遅延損害金の利率

滞納管理費の遅延損害金の利率は何%まで有効か

区分所有者が管理費等を支払期限までに支払わない場合、管理組合は滞納管理費の元金に加え、遅延損害金(利息、遅延利息、延滞金などと言ったりすることもあります。)を請求することができます。

規約等に定めがない場合、民法所定の法定利率である年5分(年5%)が適用されます。それでは、規約等に定めがある場合、その遅延損害金の利率は年何%まで有効なのでしょうか。

①年5%まで(民法所定の法定利率との関係)

これは誤りです。滞納者の中には、年5%を超える利率は違法であるかのような主張をする人がいます。おそらく、民法419条1項に「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。」と書いてあることから、そのような主張をされるのだと思います。
しかし、同420条で「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」とされていますので、当事者間で法定利率とは異なる利率を決めることができます。マンションの管理規約で遅延損害金の利率を定めるのは、まさにこの損害賠償の額の予定になり、何ら違法ではありません。

②年14.6%まで(消費者契約法との関係)

これも誤りです。おそらく消費者契約法9条2号を理由とするものだと思われ、管理費の滞納者本人よりも代理人(弁護士・司法書士)から主張されることが多いように思います。

消費者契約法は、「消費者」と「事業者」との間で締結される契約を「消費者契約」と定義し、「消費者契約」においては、年14.6%を超える部分の遅延損害金の予定を無効であるとしています。

消費者契約法によると個人は原則として「消費者」に当たりますので、マンション管理組合における区分所有者は「消費者」になります。「事業者」は法人やその他の団体等です。マンションの管理組合は権利能力なき社団とされており、その他の団体に当たりますので、「事業者」となります。
そうすると、マンションの管理規約は、「消費者」である区分所有者と「事業者」であるマンション管理組合との間の契約であるから「消費者契約」に当たるというのが、滞納者側(すなわち、滞納者の代理人の弁護士・司法書士)の主張です。
しかし、管理規約は、区分所有者と管理組合との間の契約ではありません。管理規約は、マンションにおける「区分所有者相互間の事項」(区分所有法30条1項)を定めるものですから、区分所有者同士の間での法的規範であり、区分所有者と管理組合との間の契約ではありません。

(なお、そもそも規約が契約であるかどうかについての私見⇒管理規約の法的性質

したがって、管理規約は、「消費者と事業者との間で締結される契約」ではないため、消費者契約法の適用はありません。年14.6%を超える遅延損害金の利率も有効です。

③何%でもOK(公序良俗違反との関係)

それでは何%でも許されるかというと、そういうわけではありません。あまりに高すぎる利率は、公序良俗に反するものとして無効になると考えられます(民法90条)。

具体的に何%を超えたら公序良俗違反になるかですが、年30%の遅延損害金の利率を肯定した裁判例があり(東京地裁平成20年1月18日判決・ウェストロー・ジャパン)、参考にすべきかと思います。

一般的なマンションにおける滞納管理費の遅延損害金の利率

一般的な管理組合では、年10%、14%、14.6%(日歩4銭※)、15%、18%、18.25%(日歩5銭※)のいずれかの遅延損害金の利率を採用しているケースが多いです。

※日歩○銭とは、100円に対し、1日当たり○銭の割合で遅延損害金が発生することです。365日計算をすると、日歩4銭だと年14.6%になります。うるう年にはごくわずかですが、日歩4銭(=年14.64%)と年14.6%では金額に差が出ます。

滞納管理費の遅延損害金の利率に関しての私見

個人的には、滞納管理費の回収には時間や手間、費用がかかること、管理費の滞納者が存在すること自体がマンションの価値を下げ、管理組合という共同体の秩序を乱すものであり、滞納を予防するための心理的圧力が必要なことから、年14%以上の遅延損害金の利率を定めるのが適当であると考えます。年30%の遅延損害金の利率も何ら不当ではないと思います。すなわち、マンションの管理費を滞納する区分所有者は、他の支払も滞納していることが多いため、遅延損害金の利率の低い支払については後回しにしようという心理的な作用が発生します。マンションの管理費の遅延損害金の利率が他の支払(住宅ローンや消費者金融の借入金等)の遅延損害金の利率よりも低い場合、マンションの管理費の支払は後回しにして、他の支払に回してしまうということが起きかねません。借入金等の利率と同程度かそれより高い利率にしなければ、滞納管理費の支払が後回しにされてしまう危険性がありますので、管理費の遅延損害金の利率は最低でも年14%以上にするべきだと思います。