マンション滞納管理費の基礎知識

一時的滞納~長期滞納 滞納期間別の対策

マンション管理費滞納対策―特に長期滞納者への対策

長期滞納の定義

管理費の滞納といっても、当然のことながら最初から長期滞納ということはあり得ませんので、いくつかの段階を踏んで長期滞納に至ります。
まずは1~2か月の一時的な滞納、次に3~6か月の初期滞納、6~1年の中期滞納、1年以上の長期滞納に分けられます。
初期滞納や長期滞納の正式な定義はありませんが、上記の定義がしっくりくるので、本記事ではそのように定義します。

管理費の一時的な滞納

一時的な滞納は払い忘れや口座変更の手違いなど単純なミスによって発生することがあります。
また経済的な困窮を理由とする場合でも深刻ではないケースが多いです。
したがって、この段階で書面等により督促を行えば、きちんと支払ってもらえることが多いです。
滞納問題へは早い段階で対応するのが一番ですので、1か月でも滞納があれば対応をするべきです。
この段階で放置をしてしまうと、中長期の滞納に発展しかねません。

管理費の初期滞納

一時的な滞納は過失によることもありますが、3か月以上の滞納は故意に滞納していることがほとんどです。
その理由は経済的な困窮を理由とする場合もありますが、マンションの管理組合やマンション管理会社に対しての不満が理由であることも少なくありません。
この段階での対応としては書面で督促するとともに、滞納者と管理組合の理事会などで話をして、管理費を支払ってもらえるように説得をすることも必要です。
マンション内での不満が理由であれば、それを解消することによって管理費を支払ってもらえる可能性もありますし、経済的な理由であっても他の支払に優先して管理費を支払うように説得することもできます。

管理費の中期滞納

6か月以上の滞納の場合、もはや管理組合内で解決することは難しくなっているといえます。
経済的な困窮を理由とする場合、6か月分の滞納管理費の一括払いは難しいのが通常だと思いますし、分割で支払ってもらうにしても毎月の管理費もプラスされるため、完済までに時間がかかってしまうことも多いです。
またマンション内での不満を理由とする場合、問題はかなりこじれた状態だと推測されますので、簡単に解決することはできない状態になっていることが多いと思われます。
管理費の中期滞納に関しては、弁護士に滞納管理費の回収を依頼し、弁護士名で督促してもらうのが一番です。
弁護士名で通知が来たことに驚き、資金繰りを行って滞納管理費の支払をする滞納者は少なくありません。
滞納者が支払に応じない場合、法的措置に移行することができます。

管理費の長期滞納

管理費の長期滞納者に対しては、弁護士に依頼をして督促をするとともに、法的措置を検討するべきです。
この段階の滞納は任意の交渉では簡単に解決できない段階に至っています。
マンションの秩序維持のためにも断固として対応をするべきです。
具体的には訴訟を行い、滞納のある部屋を差押えるなどして回収を図ります。
管理費の消滅時効は5年ですので、早めに対応しないと時効で回収できなくなってしまうこともあります。

管理費滞納に対する事前のマニュアル作り

滞納が6か月を超えた段階で弁護士への依頼を検討するべきですし、1年を超えて長期滞納が発生してしまった場合は速やかに弁護士に依頼をするべきです。
管理費の滞納が発生しないようにマンション内のコミュニティを活性化させるなど予防を行うことは必要ですが、それでも滞納は発生してしまいます。
滞納が発生してから考えるのではなく、あらかじめ滞納管理費の問題に対応するためのマニュアルを作成しておくべきだと思います。
本記事での解説を参考に各マンションの状況に合わせたマニュアルを作成してはいかがでしょうか。
マニュアル作成に関してはマンション管理会社やマンション管理士に相談をするのも一つの方法だと思います。

管理費の滞納者がいつの間にかマンションを売ってしまった場合

マンションの管理費を滞納している区分所有者が管理組合に連絡することなくそのマンションの部屋を第三者に売却し、いつの間にか所有者が変わっていたということがあります。
そもそも法的には、区分所有権を売却する際に、区分所有者は管理組合から承諾を得る必要はありませんし、また、原則として報告義務も負いませんので、いつの間にか所有者が変わっていたというのはあり得ることです(一般的には所有者変更届を出すことになっており、それに従う区分所有者がほとんどだとは思います。)。
それでは、そのような場合、管理組合はどのような対応を取ればよいのでしょうか。

まず、管理費を滞納していた区分所有者(以下「旧所有者」といいます。)に対しては、当然に区分所有権喪失時までの滞納管理費を請求することができます。
もし、旧区分所有者がマンション売却後に行方不明になっている場合は、こちらをご参照ください。

次に、旧所有者からマンションの部屋を購入した新たな区分所有者(以下「新所有者」といいます。)に対してですが、新所有者は区分所有法8条に基づき、旧所有者が滞納していた管理費を承継しますので、管理組合は新所有者に対しても滞納管理費の請求をすることができます。
新所有者が滞納管理費の存在を知っていたかどうかは関係ありません。
新所有者が旧所有者が管理費を滞納していたことを知らずにマンションを購入したとしても、新所有者は旧所有者が滞納していた管理費の支払義務を免れることはできません。
また、滞納管理費の支払については、旧所有者と新所有者との間で旧所有者が支払うことで合意をしていることがあります。
しかし、その合意はあくまでも旧所有者と新所有者との間でしか効力を有しませんので、管理組合はその合意に拘束されることはなく、全額を新所有者に対して請求することができます。
新所有者は滞納管理費の存在を知らなくてもその支払義務を負い、また旧所有者との間で滞納管理費の支払の割合について合意をしていたとしても管理組合から滞納管理費全額の支払を求められる可能性があるのですから、酷な立場に置かれているようにも思えます。
しかし、新所有者が旧所有者が滞納していた管理費を支払った場合、新所有者が旧所有者との間で新所有者が管理費の支払をする旨の合意をしていない限り、新所有者は支払った滞納管理費の全額を旧所有者に求償をすることができますので、決して不当ではありません。

なお、当然のことですが、区分所有権の移転後に新所有者が滞納した管理費については、新所有者のみが支払義務を負います。

 

【参考条文】

建物の区分所有等に関する法律

(特定承継人の責任)
第八条  前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。