マンションの滞納管理費の遅延損害金の利率

滞納管理費の遅延損害金の利率は何%まで有効か

区分所有者が管理費等を支払期限までに支払わない場合、管理組合は滞納管理費の元金に加え、遅延損害金(利息、遅延利息、延滞金などと言ったりすることもあります。)を請求することができます。

規約等に定めがない場合、民法所定の法定利率である年5分(年5%)が適用されます。それでは、規約等に定めがある場合、その遅延損害金の利率は年何%まで有効なのでしょうか。

①年5%まで(民法所定の法定利率との関係)

これは誤りです。滞納者の中には、年5%を超える利率は違法であるかのような主張をする人がいます。おそらく、民法419条1項に「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。」と書いてあることから、そのような主張をされるのだと思います。
しかし、同420条で「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」とされていますので、当事者間で法定利率とは異なる利率を決めることができます。マンションの管理規約で遅延損害金の利率を定めるのは、まさにこの損害賠償の額の予定になり、何ら違法ではありません。

②年14.6%まで(消費者契約法との関係)

これも誤りです。おそらく消費者契約法9条2号を理由とするものだと思われ、管理費の滞納者本人よりも代理人(弁護士・司法書士)から主張されることが多いように思います。

消費者契約法は、「消費者」と「事業者」との間で締結される契約を「消費者契約」と定義し、「消費者契約」においては、年14.6%を超える部分の遅延損害金の予定を無効であるとしています。

消費者契約法によると個人は原則として「消費者」に当たりますので、マンション管理組合における区分所有者は「消費者」になります。「事業者」は法人やその他の団体等です。マンションの管理組合は権利能力なき社団とされており、その他の団体に当たりますので、「事業者」となります。
そうすると、マンションの管理規約は、「消費者」である区分所有者と「事業者」であるマンション管理組合との間の契約であるから「消費者契約」に当たるというのが、滞納者側(すなわち、滞納者の代理人の弁護士・司法書士)の主張です。
しかし、管理規約は、区分所有者と管理組合との間の契約ではありません。管理規約は、マンションにおける「区分所有者相互間の事項」(区分所有法30条1項)を定めるものですから、区分所有者同士の間での法的規範であり、区分所有者と管理組合との間の契約ではありません。

(なお、そもそも規約が契約であるかどうかについての私見⇒管理規約の法的性質

したがって、管理規約は、「消費者と事業者との間で締結される契約」ではないため、消費者契約法の適用はありません。年14.6%を超える遅延損害金の利率も有効です。

③何%でもOK(公序良俗違反との関係)

それでは何%でも許されるかというと、そういうわけではありません。あまりに高すぎる利率は、公序良俗に反するものとして無効になると考えられます(民法90条)。

具体的に何%を超えたら公序良俗違反になるかですが、年30%の遅延損害金の利率を肯定した裁判例があり(東京地裁平成20年1月18日判決・ウェストロー・ジャパン)、参考にすべきかと思います。

一般的なマンションにおける滞納管理費の遅延損害金の利率

一般的な管理組合では、年10%、14%、14.6%(日歩4銭※)、15%、18%、18.25%(日歩5銭※)のいずれかの遅延損害金の利率を採用しているケースが多いです。

※日歩○銭とは、100円に対し、1日当たり○銭の割合で遅延損害金が発生することです。365日計算をすると、日歩4銭だと年14.6%になります。うるう年にはごくわずかですが、日歩4銭(=年14.64%)と年14.6%では金額に差が出ます。

滞納管理費の遅延損害金の利率に関しての私見

個人的には、滞納管理費の回収には時間や手間、費用がかかること、管理費の滞納者が存在すること自体がマンションの価値を下げ、管理組合という共同体の秩序を乱すものであり、滞納を予防するための心理的圧力が必要なことから、年14%以上の遅延損害金の利率を定めるのが適当であると考えます。年30%の遅延損害金の利率も何ら不当ではないと思います。すなわち、マンションの管理費を滞納する区分所有者は、他の支払も滞納していることが多いため、遅延損害金の利率の低い支払については後回しにしようという心理的な作用が発生します。マンションの管理費の遅延損害金の利率が他の支払(住宅ローンや消費者金融の借入金等)の遅延損害金の利率よりも低い場合、マンションの管理費の支払は後回しにして、他の支払に回してしまうということが起きかねません。借入金等の利率と同程度かそれより高い利率にしなければ、滞納管理費の支払が後回しにされてしまう危険性がありますので、管理費の遅延損害金の利率は最低でも年14%以上にするべきだと思います。

マンションを共有している夫婦が離婚した場合の管理費の支払義務

マンションの部屋が2名以上の共有である場合、管理費の支払義務はどうなるのでしょうか。

夫婦でマンションを購入する際にその部屋を共同名義にすることはよくあることです。同居している時は良いのですが、別居後や離婚後に管理費の滞納発生してしまった場合、居住していない一方に滞納している管理費の全額を請求することはできるのでしょうか。

管理費の支払義務は区分所有者にありますから、居住していなくても管理費の支払義務はあります。それでは、その支払義務のある管理費の額は、全額でしょうか、それとも、持分割合に従った額(例えば、2分の1)でしょうか。

共有持分割合に従った額しか支払義務を負わないとすると、共有者の1人が無資力になった場合に、管理組合の管理費の回収に困難が生じることになります。

この結論は管理費等の支払義務の法的性質によることになります。管理費等の支払義務が、分割可能な債務(分割債務)であるときは、区分建物の共有者は、それぞれ自分の共有持分割合に従った額のみ支払えば良いことになりますが、管理費等の支払義務が、性質上不可分(不可分債務)である場合には、各共有者は管理費等の全額について支払義務を負うことになります。

この点、東京高裁平成18年10月31日判決(ウェストロー・ジャパン)は、「マンションの1つの専有部分の区分所有権を共有する複数人が管理組合に対して負担する管理費等の支払義務は,専有部分の財産的価値,利用価値の維持,向上という各持分権者が共同不可分に受ける利益を得るための費用負担であるから,その性質上,金銭債務であっても,不可分債務であると解するのが相当であり,管理組合は共有者の1人に対し,その専有部分が単独所有であった場合にその単独所有者が負担すべき管理費等の全部を請求することができ」るとしました。

すなわち、マンションの管理費の支払義務は不可分債務であり、管理組合は、共有者の一人に対して、滞納管理費の全額を請求することができるということです。

例えば、夫婦が共同名義人になっていたが、離婚して妻が出ていった場合において、居住中の夫が無資力となって管理費を滞納したとしても、元妻が共有者のままであれば、管理組合は元妻に滞納分全額を請求することができ、その全額を回収することができるという結論になります。元妻からすると、居住もしていないのに管理費等の支払義務を負うのは不当だと考えるかもしれませんが、元妻はマンションという資産を所有しており、管理費等はそのマンションの価値の維持に使われていること、元妻は元夫に対して求償できることを考えると何ら不当ではありません。

元妻としては、離婚をする時点で共有名義のマンションの帰属を明確にするとともに、仮に共有状態が継続するのであれば、元夫が管理費を滞納しないように監視をするなどして、管理費の滞納額が大きくなる前に問題を発見するように努めるべきでしょう。離婚をするのであればマンションの名義は単独名義にするのが理想ですし、そうするように努めるべきです。