事業用物件について居住用物件の倍額の管理費を設定した規約を無効であると判断した裁判例

東京地裁平成27年12月17日判決・判例時報2307号105頁(平成26年(ワ)第24611号管理費等請求本訴事件・平成27年(ワ)第2094号不当利得返還請求反訴事件)

1.事案の概要

マンションの管理組合である原告が、区分所有者である被告らに対し、同人らの共有する各居室については事業用物件の管理費を2倍とする規約が適用される旨を主張して、これを前提に算定した未払滞納管理費等の支払を求めたのに対し、被告らは当該規約の規定は無効であると主張するとともに、不当利得返還請求権に基づき、既払の管理費等のうち過払いとなっている金額等の返還を求めて反訴を提起した事案

2.判決の要旨

裁判所は、「区分所有法30条3項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めるに当たっては、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない旨を規定しており、上記要件が充たされていない場合には規約の当該部分は無効になるものと解される」とし、事業用物件の管理費額を通常の倍額とする規約の規定は無効であると判断した。

3.コメント

本判決は、事業用の物件について居住用の物件の2倍の額の管理費を定めた規約の規定が区分所有法30条3項に違反し無効であると判断したものです。
本件において、事業用の物件の利用状況は、事務スペースや応接スペースとして利用されているものであり、共用部分の使用頻度等が通常の居住用物件と大きく変わらないものであったため、裁判所は居住用物件の倍額の管理費を設定することは不合理であると判断したものだと思われます。
しかしながら、そもそも区分所有法30条3項が使用目的や利用状況を規約の考慮要素としたのは、事業用物件について居住用物件よりも共用部分の負担を大きくするのが一般的であることを念頭に置いてのものであり、本判決の判断には疑問が残ります。
また、本判決は被告らの現在の具体的な利用状況を規約の有効無効の判断の基準としていますが、本来は規約設定時の利用状況を判断の基準とすべきだと思います。すなわち、規約の設定時の利用状況が事業用物件について居住用物件の倍額の管理費を設定する合理的なものであれば、その規約設定は有効なはずで、その後、利用状況に変更があり、規約の規定が不合理なものになったとしても設定当時有効であった規約が当然に無効になるものではないからです。

本判決の結論が全てのマンションに当然に当てはまるわけではありませんので、現に事業用物件について居住用物件よりも高い管理費を設定している管理組合があっても、ただちに管理規約の変更をする必要はないと思います。ただし、心配であれば一度弁護士に相談をされることをおすすめいたします。

 

マンション滞納管理費に強い弁護士の見分け方

マンションの滞納管理費問題に強い弁護士かどうかを見分ける方法

1.その弁護士のサイトを見る

その弁護士が運営しているホームページや専門サイトなどを閲覧し、その弁護士がマンション管理費滞納問題に詳しいかどうかを調べるという方法があります。
マンション管理費問題以外にも色々なことを専門として挙げている弁護士は、おそらくマンション管理費の問題にはそれほど強くないと思われます。
弁護士が一度に処理できる件数には限度があります。色々な事件をやっていると、調査や検討に多大な時間がかかります。この調査検討の時間が弁護士業務のうち最も時間やエネルギーを必要とする時間です。色々な事件を専門にしているということは、それだけそれぞれの事件については浅い経験しかないということです。
マンション滞納管理費の問題に詳しい弁護士を探しているのであれば、マンション滞納管理費の問題以外にたくさんの専門分野を持っている弁護士は避けた方が良いと思います。

また、マンション滞納管理費の問題について、十分な量の文章が書かれていたとしても、内容を見ればマンション滞納管理費の問題に詳しくないということが簡単に見抜ける場合もあります。
例えば、区分所有法7条の先取特権に基づいて不動産を差押えるなどという方法を提案している弁護士がいれば、まず間違いなく、マンション滞納管理費の問題に詳しくない弁護士だといえると思います。マンション滞納管理費の回収において、区分所有法7条を利用することはまずあり得ません。その理由は別記事で説明していますので、参考にしてください。→区分所有法7条の先取特権に基づく競売

支払督促や少額訴訟を提案している弁護士もマンション滞納管理費の回収に詳しくない弁護士だと思われます。その理由はこちらです。→滞納管理費回収と支払督促滞納管理費回収と少額訴訟

区分所有法59条について詳しく書いている弁護士がいれば、マンション滞納管理費の回収に詳しい可能性が高いです。

このように、サイトやホームページの中身を見ることによって、弁護士の見分けをすることは可能です。しかし、この方法は、弁護士を探すマンション管理組合の側にもそれなりの知識がなければ見抜けませんので、通常はなかなか難しいかもしれません。

2.その弁護士の裁判の経歴を調べる

少し裏技的な方法ですが、その弁護士がこれまで関与した裁判例を調べることで、その弁護士がマンション滞納管理費回収業務に力を入れているかどうかが分かります。

判例データベースは弁護士でなくても申し込めば誰でも利用することができます。
例えば、TKCローライブラリーWESTLAW JAPANなどがあります。

判例データベースに弁護士の名前を打ち込んで検索すれば、その弁護士がこれまでに担当した事件が表示されますので、そこにマンション滞納管理費問題に関する事件があるかどうか、どの程度の割合であるかを調べれば、その弁護士がマンション滞納管理費の問題に詳しいかどうかを調べることができます。
ただし、検索によって表示されるのは、その弁護士が過去に扱ったすべての事件というわけではなく、たまたまデータベース会社の担当者の目に留まった事件ですので、その点は注意しておく必要があります。

また、判例データベースの利用には費用がかかります。
ただし、無料キャンペーンをやっていたりもしますので、その期間内に調べるという方法はあり得ます。
図書館で無料で判例データベースが利用できる場合もありますので、それを利用する手もあります。

3.まとめ

一般の方からは頼もうとしている弁護士がマンション滞納管理費の問題に精通しているかどうかを判断するのはなかなか難しいと思います。
しかし、現在はインターネットも発達しており、調べる方法がないわけではありませんので、しっかりと滞納管理費を回収できる弁護士を探して、マンション滞納管理費の問題に詳しい弁護士に依頼をされることをおすすめします。