和解調書に基づいて滞納者の財産を差し押さえることができるか

和解調書に基づいて滞納者の財産を差し押さえることができるか

【質問】 当マンションには長期の管理費滞納者があり、管理組合としては何度も督促をしてきましたが、いっこうに解決しなかったため、その滞納者に対して、管理費請求訴訟を提起しました。裁判の期日には、相手方が出廷し、今後はちゃんと管理費を支払うということでしたので、裁判において和解をしました。和解の内容としては、滞納管理費を分割で支払うというもので、1回でも分割が滞った場合には残額をただちに一括で支払うというものでした。ところが、滞納者はその和解は守らず、数か月で再び管理費の滞納を始めてしまいました。当管理組合としては、和解が守られなかったので、相手方の財産を差し押さえて強制執行をしたいと考えているのですが、このような場合、再度訴訟を提起し、判決を取らないといけないのでしょうか。もし再度訴訟を提起しなければならないとすると時間も費用もかかってしまいますので躊躇をしております。

【回答】 貴管理組合は、再度訴訟を提起する必要はなく、和解調書に基づいて強制執行をすることが可能です。
債務者の財産を差し押さえて、強制執行を行うには債務名義が必要とされています(民事執行法22条)。
債務名義とは債権の存在及び範囲を公的に証明する書面のことです。
マンションの管理費滞納案件においては、滞納管理費の存在とその金額について公的に証明する書面となります。
確定判決(民事執行法22条1号)のほか、和解調書も債務名義になります(同条7号、民事執行法267条)。
したがって、貴管理組合は、和解調書に基づいて、相手方の財産を差し押さえて強制執行をすることが可能です。
どの範囲の債権について強制執行が可能かという点についてですが、分割払いの和解の場合、期限が到来した支払分についてのみが強制執行の対象となります。しかし、本件では、1回でも滞納管理費の分割支払が滞った場合には滞納管理費の残額をただちに一括で支払う旨の条項があり(これを「期限の利益の喪失条項」といいます。)、滞納者は分割払いを怠っているわけですから、すでに期限の利益は喪失しており、一括での支払を請求できることになりますので、強制執行についても、滞納管理費全額が対象となります。

強制執行を行うに当たっては、強制執行の対象とする財産を何にするか(動産なのか、不動産なのか、債権なのか)、その財産をどうやって探し出すか(預金の探し方や登記の調べ方)など専門的な判断を要しますし、どのような書類が必要でどのような手続を取れば良いのかなどについても一般の方には少し難しいかと思いますので、弁護士に相談をされてから進められるのが良いかと思います。

滞納管理費のある状態での債務整理

マンションの管理費を滞納している区分所有者が債務整理を検討している場合

マンションの管理費を滞納している区分所有者が債務整理を行うということはよくあります。
管理費を滞納するような経済状態の者は他の債務も負っていることが多いためです。

債務整理を行おうとする場合、まず弁護士に相談をして、その後、任意整理をするのか、自己破産をするのか、個人再生をするのか、特定調停をするのかなどを決定します。

管理費滞納と任意整理

管理費を滞納している区分所有者が任意整理を行うことは多いです。
管理組合に対して、弁護士から任意整理の提案があった場合の対応ですが、基本的には強気で交渉をして構いません。
債務者側の弁護士は、任意整理に応じないと自己破産をする、自己破産をすれば回収が困難になるがそれでもかまわないのか、遅延損害金をカットしてもらえれば、元金だけは分割で支払うなどと主張をしてきますが、自己破産をした場合であっても、管理組合は滞納管理費全額の回収ができますので、債務者側弁護士の言いなりになる必要はありません。
マンション管理組合としては債務者側弁護士に対して、元金も遅延損害金も一切カットできないこと、その上での分割になら応じる予定があること、管理組合側の提案が飲めないのであれば自己破産をしてもらって一向に構わないこと、自己破産となるとマンションを失うことになるが債務者自身はそれでも構わないのか確認してほしいことなどを伝えるべきです。

管理費滞納と自己破産

次に、管理費を滞納している区分所有者が自己破産をすることも多いです。
自己破産をした場合ですが、免責許可決定が確定すると、債務者自身は滞納管理費の支払義務を免れます。
しかし、その場合でも、滞納管理費の支払義務自体が消滅するわけではないので、それを承継した新所有者から回収をすることが可能です。

管理費滞納と個人再生

管理費を滞納している区分所有者が個人再生を選択することはほとんどありません。
なぜなら、マンションの管理費を滞納している状態では住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用することができないため、個人再生を利用するメリットがほとんどないためです。
また、管理費を滞納している状態では個人再生の再生計画自体が認可されない可能性もあるため、通常は管理費滞納を解消してから個人再生を行うことになります。

 

マンションの管理費を滞納している区分所有者が債務整理を行う場合にも、基本的にはマンション管理組合は保護されることになりますので、慌てることなく、弁護士等に相談をして適切に対応をすれば良いと思います。