マンション管理費の裁判例紹介

年14.6パーセントの割合を超える遅延損害金の利率を定めた管理規約の規定を有効であると判断した裁判例

東京地裁平成28年6月15日判決(平成27年(レ)第1080号管理費等請求控訴事件)

1.事案の概要

マンションの管理組合である被控訴人が、控訴人に対し、管理規約に基づき、滞納管理費等の支払及びそれに対する年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審である東京簡易裁判所は、被控訴人の請求を認容する判決(原判決)を言い渡したため(東京簡易裁判所平成27年(ハ)第13984号)、控訴人が年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金の支払請求は消費者契約法の規定に照らして許されない旨主張し控訴をした。

2.判決の要旨

裁判所は、「本件規約は、本件マンションの区分所有者で構成された被控訴人の自治規範であり、消費者契約法が対象とする消費者契約ではない」とし、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めを有効である旨判断した。

3.コメント

本判決は、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めを消費者契約法に違反しないと判断したものです。
消費者契約法は消費者契約においては年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金を無効であると定めていますので、管理規約が消費者契約に当たれば、年14.6パーセントの割合を超える部分の遅延損害金は無効となります。
しかし、裁判所は管理規約は、区分所有者で構成された管理組合の自治規範であり、消費者契約法が対象とする消費者契約ではないとして、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めも有効であるとしました。
当ブログにおいても言及しているところですが(⇒別記事)、管理規約は「消費者と事業者との間で締結される契約」ではないため、消費者契約法の適用はありません。
本判決は、そのことを明らかにした判決であり、結論には全面的に賛成いたします。

ただし、本件においては、被控訴人は控訴審において請求を減縮して年14.6パーセントの割合を超える部分の請求を取り下げているため、年18.25パーセント(日歩5銭)の割合による遅延損害金の定めが消費者契約法に違反するかどうかという点は争点とはなり得ず、その点について裁判所が判断を示すのは妥当ではないようにと思われます。なお、個人的には控訴審で請求を減縮して本来であれば認められるはずの遅延損害金の請求をしなかった被控訴人の姿勢にも若干疑問を持つところではあります。

本稿では取り上げませんでしたが、本判決は充当方法に関して「当事者間の合意がない限り、民法491条1項の順に従わない充当指定はできない」という判断も示しております。

事業用物件について居住用物件の倍額の管理費を設定した規約を無効であると判断した裁判例

東京地裁平成27年12月17日判決・判例時報2307号105頁(平成26年(ワ)第24611号管理費等請求本訴事件・平成27年(ワ)第2094号不当利得返還請求反訴事件)

1.事案の概要

マンションの管理組合である原告が、区分所有者である被告らに対し、同人らの共有する各居室については事業用物件の管理費を2倍とする規約が適用される旨を主張して、これを前提に算定した未払滞納管理費等の支払を求めたのに対し、被告らは当該規約の規定は無効であると主張するとともに、不当利得返還請求権に基づき、既払の管理費等のうち過払いとなっている金額等の返還を求めて反訴を提起した事案

2.判決の要旨

裁判所は、「区分所有法30条3項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めるに当たっては、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない旨を規定しており、上記要件が充たされていない場合には規約の当該部分は無効になるものと解される」とし、事業用物件の管理費額を通常の倍額とする規約の規定は無効であると判断した。

3.コメント

本判決は、事業用の物件について居住用の物件の2倍の額の管理費を定めた規約の規定が区分所有法30条3項に違反し無効であると判断したものです。
本件において、事業用の物件の利用状況は、事務スペースや応接スペースとして利用されているものであり、共用部分の使用頻度等が通常の居住用物件と大きく変わらないものであったため、裁判所は居住用物件の倍額の管理費を設定することは不合理であると判断したものだと思われます。
しかしながら、そもそも区分所有法30条3項が使用目的や利用状況を規約の考慮要素としたのは、事業用物件について居住用物件よりも共用部分の負担を大きくするのが一般的であることを念頭に置いてのものであり、本判決の判断には疑問が残ります。
また、本判決は被告らの現在の具体的な利用状況を規約の有効無効の判断の基準としていますが、本来は規約設定時の利用状況を判断の基準とすべきだと思います。すなわち、規約の設定時の利用状況が事業用物件について居住用物件の倍額の管理費を設定する合理的なものであれば、その規約設定は有効なはずで、その後、利用状況に変更があり、規約の規定が不合理なものになったとしても設定当時有効であった規約が当然に無効になるものではないからです。

本判決の結論が全てのマンションに当然に当てはまるわけではありませんので、現に事業用物件について居住用物件よりも高い管理費を設定している管理組合があっても、ただちに管理規約の変更をする必要はないと思います。ただし、心配であれば一度弁護士に相談をされることをおすすめいたします。