少子高齢化社会がマンション滞納管理費回収の実務に与える影響
平成29年版高齢社会白書によると、2016年の日本の総人口に占める65歳以上の割合は27.3%と実に4人に1人が高齢者という時代を迎えました。
2065年には高齢化率が38.4%となると予測されているようです。
このような少子高齢化社会がマンション滞納管理費回収の実務に与える影響について考えてみました。
1 相続人不存在の案件の増加
まず第一に考えられるのが相続人が不明の案件や相続人が存在しない案件が増加することです。
少子高齢化によって孤独死が増えるとは限りませんが、子どもの数や兄弟姉妹の数は少ないはずですので、必然的に相続人がいないケースも増加するはずです。
相続人が存在しない場合、マンションの管理組合としては滞納管理費の回収のために相続財産管理人の選任の申立てをしなければなりませんので、多大な費用と手間がかかってしまいます(費用として100万円以上かかるケースもあります。)。
今後はそのようなケースも想定して、あらかじめ資金をプールしておくことも検討すべきだと思います。
2 相続人調査の簡略化
逆に、子どもや兄弟姉妹の数が少ないことは相続人調査が簡単になるというメリットもあります。
明治大正生まれの方の相続人調査をすると、数十人の相続人が判明するというケースもあり、手続が極めて煩雑になることがあります。
少子高齢化社会においては、そのようなケースはレアケースになっていくものと思われます。
3 理事の高齢化
マンション内の住民の高齢化が進むことによって、理事になる方の平均年齢が高くなるということが考えられます。
最近は元気な高齢者の方も多いため、一概にはいえないのですが、高齢になると意欲が低下してしまい、管理組合の活動自体が停滞してしまうというおそれもあります。
管理組合の活動が停滞すると、滞納管理費の問題なども先送りにされてしまい、問題が重症化してしまうということがあり得ます。
そういったことにならないように、組合活動を活発化させ、元気な管理組合を作っていくことが重要であると思います。
4 認知症を原因とする管理費滞納の増加
高齢者が増加するということは認知症の患者が増加するということにもつながると思います(医療の発展を考慮しなければ)。
認知症になると、管理費を払い忘れてしまうことも増えるでしょうから、認知症を原因とした管理費の滞納も増加すると思われます。
成年後見人などがいれば、管理費滞納を防止できますが、マンション管理組合には後見開始の審判を請求する権利がありませんので(民法7条)、主体的に成年後見人をつけることができません。
市町村長が後見開始の審判を請求することができるという規定はありますが(老人福祉法32条)、市町村長が後見開始の審判を請求することは稀です(過去に私が扱った案件で、どう考えても成年後見人が必要なケースで、市町村長に後見開始の審判の請求を依頼したという案件がありましたが、その市町村長は結局後見開始の審判の請求をしませんでした。)。
今後、さらに少子高齢化が進み、身寄りのない認知症の高齢者が増加することを考えると制度の改善が強く望まれます。個人的には、住民にとって最も身近なコミュニティの一つであるマンションの管理組合に後見開始の審判の請求権が付与されることが望ましいと考えています。
いずれにしても、高齢の区分所有者が認知症に罹患してしまった場合にすぐに気づいてケアしてあげられるようなコミュニティの形成は不可欠だと思いますので、日々のマンション管理組合の活動が何よりも重要だと思います。